エリ、という可愛らしい呼び名の少女は、
見慣れない厳しい面持ちでこちらを見ていた。
深い青、矢車菊の色の瞳は、
焦りと動揺に瞬きを繰り返している。
短く切られた黒い髪。
飾りのない士官予備学校の制服。
見方によっては、一瞬性別の判断を迷わせる。
細く華奢な肩や腰回り。
それは少女というより妖精じみていて、
初めて見る者はどうしても不躾に見てしまうのだ。
【エリ】
「……本当なの、アレクシア」
【エリ】
「あんな遠い……アナトリアへ行くなんて、本気で言ってるの」
食い入るように見つめる目。
幼い頃から共に過ごした誰よりも大切な友人の、
見たこともない表情に胸が痛む。
【アレクシア】
「ええ」
【エリ】
「どうして、アレクシアが……」
【エリ】
「兄様は……兄様たちは、
アレクシアになにをさせようとしているの」
【アレクシア】
「外交の一助となれば、ということらしいわ。
今回は女であることも重要なのだとか」
【エリ】
「大使館にも人はいるじゃない。女の人だって……」
【アレクシア】
「エリ。このことは外務卿の下された命なのよ」
【アレクシア】
「ヴュルテンベルクは今はドイツの一構成国でしかない。
盟主国には逆らえないの」
広大な土地を有し、権勢をふるった頃もあった。
だが、それも祖父や祖母の時代の話だ。
ドイツ皇帝――プロイセン国王の下命を退けるなどできなかった。
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