【ヤスミン】
「この国ではね。女は隠されるものとされてるの」
そんなエリの様子に察したのか、
ヤスミンが子供に説くように教えてくれる。
【エリ】
「隠されるべき、もの」
【ヤスミン】
「どうして、って聞くんでしょ。
一から話してたら朝になっちゃうけど、
女は禁じられた存在なのよ。この国の大概の人の中ではね」
【エリ】
「それは……宗教だとか?」
【ヤスミン】
「元を辿るとそうね。
女は男のためにある所有物だから」
【エリ】
「…………」
ヤスミンの言葉は明快だった。
そこに迷いや疑問といった感情はうかがえない。
ただ、その口にする事柄を、
彼女の言うこの国の大概の人々とは
少しだけ異なる場所から見ているようにも感じられた。
【ヤスミン】
「この国の男は愛情深いからだ、っていう人もいる。
独占欲が強いせいだって。
だから、他の男の目から遠ざけるためにもハレムはある」
【エリ】
「奥さんは何人も持てるんでしょう。
それで愛情深いなんて言える?」
【ヤスミン】
「普通の人は四人まで。
皇帝ならいくらでも持てるわね」
【エリ】
「多すぎるよ。そんなに」
【ヤスミン】
「皇帝に妻という立場の人はいないんだけど。
より優秀な跡継ぎを選ぶためって理由があるからね。
宮殿にハレムがあるのは、そのためなの」
【エリ】
「……継承権を持つ子供が多すぎると、いいことないよ」
【ヤスミン】
「そうね。それもただの理由になっていったわね。
実際ハレムに送られてきた女たちは
大抵高官や地方領主の賄賂として差し出された者だから」
【エリ】
「それが……献上奴隷?」
【ヤスミン】
「そう。さっきも言ったけど、
犠牲祭が近づくとハレムの人員が増えるのよ。
それだけ奴隷や宦官も必要になるからね」
※素材はいずれも開発中のものとなります。