【ファルーク】
「ぐっ……!?」
一瞬のことだった。
ファルークがスィナンを止めようとした瞬間、
後ろに控えていた男たちが一斉に彼へと飛びかかった。
【アレクシア】
「何をするのです」
反射的にそう叫んで駆け寄ろうとしても、
強い力で引き戻されてしまう。
【アレクシア】
「……っ」
【ファルーク】
「スィナン殿……!」
もはやファルークは敵意を隠すことなく、
その目でスィナンを睨みつけていた。
【スィナン】
「全く……手間のかかる王女だ。
その上すぐに噛みつきたがる犬までいる」
部下にアレクシアを引き渡したスィナンが、
ふとファルークを見て目を細める。
【スィナン】
「……どこかで会ったことがあるかな、君とは」
【ファルーク】
「…………」
【スィナン】
「まあ、いい。思い出せないということは、
その程度のものだったということだろう」
【スィナン】
「さて、アレクシア様。
もうあなた向けのお上品な交渉はおしまいです」
【スィナン】
「あなたは我々と来ていただく。
いいですね?」
【アレクシア】
「誰が、あなたの言う通りになど――」
【スィナン】
「冷静に考えてみてください。
あなたはここの陳腐なハレムに囲われて安心していたようですが、
有事の際この屋敷ではあまりにも心許ない」
【スィナン】
「例えばそう……
ここにあなたを狙う賊が押し入ったとしたら、どうします?」
【スィナン】
「見た所、特別なにか備えている様子はない。
まずあなたを守り切れないでしょう」
【スィナン】
「となると……あなたは連れ去られ、残りは殺される。
そうならないと言えるでしょうか?」
【アレクシア】
「……っ……」
※素材はいずれも開発中のものとなります。