Shortstory(ショートストーリー) 壊れた鍵

「きつかったら言ってね」
  これは、悠人さんの声。
  後ろ手に手首を縛られ、目には目隠しの布を巻かれる。自由を奪われた私は、人形のようにベッドの上に転がった。
  これは私を拘束するためのものでも、ましてや苛むものでもない。
  全て、私に愉悦と快楽を与えるためのもの。
「これから楽しいゲームをするからな」
  これは、翔太さんの声。
「失敗したらお仕置きだから、頑張るんだよ?」
  私の背中をなぞっているのは誰の指?
「……失敗しても構わないぞ? それはそれで楽しいからな」
  耳を甘く食んでいるのは誰の唇?
  ベルトを取り、ファスナーを下ろす音が聞こえる。
  顎を掴まれ導かれた先には、すでに硬くなったいきり立つものがある。
「咥えてみて、どっちのものか当てて?」
  唇に感じる熱でそれの先を見つけると、舌を伸ばした。
  熱い塊が舌先に触れ、それをなぞりながら天辺まで舌を動かす。窪みから染み出す雫を絡め取りながら、上からすっぽりと咥える。
  上顎に引っかかる硬い窪み、苦しいほどの圧迫感を与える太さ、根元までは咥えこむことがでない長さ、苦みの強い雫、そしてこの匂い。
  人よりも大きく、硬く、いつも私の奥をめちゃくちゃに突き上げているもの。
  すぐに誰のものかわかったけれど、私はあえてわからない振りをした。
「よく味わって考えてごらん」
  空気が入らないように口をすぼめ、それをきゅうっと締め付けながら頭を上下に動かす。
  裏側を通る太い血管が舌の上で波打ち、彼が感じていることがわかる。散々教え込まれたから、どこをどうすれば男の人が悦ぶのか、全てわかっている。
  けれどあまり本気を出してしまうと、入れる前に果ててしまうから、少し手加減をする。
「……さあ、どっちのものだ?」
「ん……あ……悠人さん……?」
  私はわざと間違えた。
「残念、俺のものだ」
「はずれちゃったからお仕置きだね」
  虫の羽音のような音が聞こえ、私はすぐにそれがローターだとわかった。
  どちらかの手が私の足を大きく開かせ、押さえつける。私の小さく敏感な部分に、ローターが押し付けられた。
「んぁっ……!! ひっ……ああッ……やあっ……ンンッ!」
  強すぎる刺激に身体が壊れてしまいそうな錯覚を覚え、それから逃れるために足を閉じようと必死にもがく。けれど強い力に押さえつけられ、せいぜい腰を浮かして小刻みに震えることぐらいしか出来ない。
  激しい呼吸に徐々に手足が痺れ、視界が真っ白に塗りつぶされていく。身体が砂のように細かく砕かれ、波にさらわれていくような感覚に陥る。
「あっ……ひっ……イク……イクゥ……ッ!」
  イク瞬間息が止まり、私は大きく背中を反らせた。
「……イッたんだ? あっという間だったね」
  それは、何度も何度も執拗にここを弄られ、舐められ、吸われ、快感を1つも取りこぼすことのない身体に開発されてしまったせい。今では軽く耳を舐められただけで、秘部から蜜が溢れてしまう。
「十分濡れたみたいだな」
  これはたぶん翔太さんの声。
「今日はこっちに入れてみようか」
  これはたぶん悠人さんの声。
「ローションは?」
  これは……翔太さんの声?
「彼女ので濡らすから大丈夫」
  これは……悠人さんの声?
  目隠しをされていると、段々どちらがどちらの声かわからなくなってくる。けれど別にそんなことはどうだっていい。
  私にとって大切なのは、2人から愛されているということだから。
「……んっ!?」
  ぬるりとした感触とともに、お尻の穴にローターが入ってきた。
「あっ……いやっ……あっ……これ……!」
  ここにローターを入れられるのは初めてだ。
  骨を揺さぶられ、身体の内側に鳥肌が立つような初めての感覚に、不快感を覚える。
「あ……やだ……これ……嫌い……抜いてぇ……!」
「お仕置きだって言ったよね? ダメだよ、我慢しないと」
「ひぁっ……でも……あ……」
「次で正解したら抜いてやるよ」
「んくっ……あッ……!!」
  濡れた場所に、いつものものが一気に押し込まれる。
  それは内壁を擦りながら最初から激しく動き、一ヶ所を執拗に打ち付ける。
「あっあっあっつ……んあッ……気持ち……い……あっ……凄い……気持ちいい……で……すぅ……!」
  快感は、お尻の穴の中で震えているものと連動する。さっきまで不快感しかなかった痺れが、今は奥を突かれる快感に刺激を加えるスパイスとなって私を襲う。
「ひぁっ……これ……気持ち……い……い……んんっ……あっ……ああッ……!」
「今入っているのは誰のものだ?」
  最初から激しく動くこれが、誰のものかを私は知っている。たとえ果ててしまったとしても、大きさも硬さもそのままに、すぐに2回目が出来るあの人のものだ。
「……んっ……翔太……さん……?」
  私は今度もわざと間違えて答えた。
  お尻の中で震えるこれを抜いてしまわれたくなかったから。
「……はずれ、入れてるのは僕だよ」
  笑い交じりに息を吐き出しながら悠人さんが答える。
「もう何十回としてるのに、まだ覚えていないのか? ……しっかりと覚えるまで、また教え込まないとな」
「んぐっ……!」
  さっきのものを再び口の中に入れられ、私は喘ぎを漏らしながらそれを懸命にしゃぶった。
壊れた鍵   セックスは大好きだ。
  身体の快楽だけでなく、煩わしいことの全てから逃れることができる。
  2人に抱かれている時は、頭が空っぽになって何も考えずに済む。終わった後はぐったりとして、怖い夢も見ずに眠ることができる。
「んっ……あ……ふぁ……もっと……激しく……して……」
  そういえば、私が初めて抱かれた相手はどっちだったんだろう。
  思い出そうとしてみても、思考が快感に流されてしまい思い出すことが出来ない。
  でも、私にとってそんなことはほんの些細なこと。
  私の身体にすっかり溺れている2人は、これからも私に捨てられないように、様々な新しい快感を用意し、悦ばせてくれるのだろう。
  鳥籠にかかっていた鍵はとっくに壊れている。
  それでも小鳥は飛び立たない。
  なぜなら、小鳥の心もまた、壊れてしまっているのだから。
 
  ……本当に?