Shortstory(ショートストーリー) 秘密計画

 司さんが、気持ち悪い。
 それはいつものことだけれど、今日はいつにも増して気持ち悪い。いや、今日だけではなく、ここ1週間ほどずっと気持ち悪い。
 料理をしている時の鼻歌は止まらないし、気が付けばニヤニヤして楽しそうに体を左右に揺らしている。いつも気持ち悪い司さんだけど、最近の気持ち悪さは異常だ。
 理由はわかっている。
 明後日は、初めて2人きりで過ごす、私の誕生日だからだ。
 週末は悠人さんの主催で盛大な誕生日パーティーをしてくれることになっているけれど、当日は平日だったのもあり、司さんと2人きりでこじんまりとお祝いをすることになった。
 そうと決まってからの司さんのテンションの高さは私が引く程で、なぜか私以上にソワソワしている。
 2人で過ごすことの嬉しさはもちろんだろうけれど、もう1つ、司さんが浮かれている理由を私は知っている。
 それはクローゼットに隠された紙袋だ。
 私がまだ贅沢な暮らしをしていた時代に愛用していたブランドのもので、大きさや形から、靴かバッグが入っていることが察せられた。今の司さんが買うには容易い値段ではないので、きっと生活を切りつめて無理をして買ってくれたんだろう。
 その気持ちはとても嬉しくて、本当は今すぐにでも抱き付いてお礼を言いたいぐらいだ。
 得意顔でこれを渡され、私が素直に喜べば、司さんはそれはもう、溶けたアイスクリームのごとくデレデレと眉尻を下げ、至福の笑みを浮かべるんだろう。
 きっとそれを見た私も幸せな気持ちになり、そして同時に相反する別の感情も抱くはずだ。
 葉山のくせに素敵なサプライズなんて用意して、葉山のくせに得意顔なんてして、葉山のくせに至福の笑みなんて浮かべて、葉山のくせに葉山のくせに葉山のくせに……。
 ――生意気だ。
 どうしても司さんの困った顔を見たくなり、私は意地悪を仕掛けることにした。
 ネットの通販サイトで、いつもだったら絶対に開かないような商品ページを検索し、手頃なものをみつけたら『お急ぎ便』にチェックを入れて注文する。
 そして自分のクローゼットの中から、保存しておいた、プレゼントと同じブランドの紙袋を取り出した。
 これなら綺麗だし、新品のものとすり替えてもわからないだろう。
 私は司さんが慌てふためく姿を想像し、1人ほくそ笑んだ。

「お誕生日おめでとうございます」
 テーブルの上に並ぶ、司さんの手料理と、私が作ったポテトサラダ。その中央には1輪挿しの赤いバラ。丁度2人で食べきるぐらいの小さなイチゴタルトの上にはろうそくが1本。
 華美でも豪華でもない食卓だけれど、その代わり司さんの愛情がたっぷりと詰まっている。
 ロウソクの火を吹き消し、乾杯をした後は、いよいよプレゼントを渡される時間だ。
「これ、誕生日プレゼントです。きっと佳奈子さんにお似合いになると思います」
 司さんが鼻をひくひくさせ、得意顔でプレゼントを差し出す。
「わあ、これって私が好きなブランドの……憶えていてくれたんですね」
「当たり前です、大好きな人のことですから」
 胸を張って頬を紅潮させる姿がとても可愛くてとても愛しくて、思い切り頬をつねりたくなる。けれど今はぐっと堪え、プレゼントを受け取った。
「開けてみてもいいですか?」
「もちろんですとも」
 中から白い箱を取り出す。本物は綺麗にラッピングされリボンもかけてあったのだけど、気分が高揚しているためか、司さんは不自然な点には気が付いていないようだ。
「ふふ、何が入ってるんでしょう」
 わざとらしいぐらいの笑みで箱を開け、中身を取り出す。
 一見レースのリボンのように見えるそれを広げた私は、小さな叫び声を上げた。
「きゃっ!」
「ど、どうされました!?」
「あ、あの、これは!?」
「え……は? あああああ、こ、これは……!?」
 葉山さんが小さなピンクのレースを広げる。
 それは、サイドが細いリボンになっている透けた小さな下着と、同じ素材で出来たベビードールだった。
「ええええっ!?」
「司さん、私にこんなものを着せようと? ……変態」
「こ、こんなはずは! 私は佳奈子さんにお似合いの靴を買ってきたはずなんです!」
「言い訳はいいです。司さんが変態なのは今に始まったことではありませんし」
「そんなあ……」
 司さんは哀しみ半分、悦び半分の複雑な表情で肩を落とした。
「許して欲しいですか?」
「そ、それはもちろん!」
「では……」
 私は透けた下着を持ち上げて、薄く笑ってみせた。

「か、佳奈子さん……恥ずかしいです」
「今は佳奈子様と呼びなさい」
「うう、佳奈子様、もうお許し下さい」
 そう言いながら、司さんが興奮してこの状況に快感を覚えていることはお見通しだ。
 それにしてもシュールな光景だ。透けたピンクのベビードールを身にまとった男性が、狭いダイニングテーブルを囲んでイチゴタルトを食べている。
 LLサイズを頼んだだけあってサイズはぴったりで、しかもやけに似合っていた。
「お料理、とてもおいしかったです」
「それは……よかったです」
 司さんは内腿をもじもじと擦り合わせながら力なく笑った。
 チラリと見えた下着の中身が、すでに少し膨らみかけていることに気が付いていたけれど、私はそれを無視していつもよりゆっくりとケーキを食べた。
 食事が終わり、司さんはそのままの姿で食器を洗うことになった。私も手伝うために、シンクの前で隣に並ぶ。
 すでにこの姿にも慣れてしまったのか、最初ほどの恥じらいはなく、軽く鼻歌まで歌いながら食器を洗っている。
 司さんは妙に順応性が高いところがあり、多少慌てたとしてもすぐに冷静さを取り戻してしまう。
 葉山のくせに葉山のくせに葉山のくせに生意気だ。
 私はすっと背後に回ると、下着の上から司さんのものを撫でた。
「んっ……あ……はあ……なにを……」
「手を止めない」
「は、はい」
 震える手で食器を洗い続ける司さんのものを、軽くきゅっと握る。それから親指を使って先の方を撫でていたら、みるみるうちに大きくなり、両手じゃないと掴めない大きさになった。
 私は片手で先の窪みを撫でながら、片手で裏の筋をゆっくりとしごいた。
「はあ……はあ……はあ……」
 吐息に合わせるように先からぬるぬるした雫が溢れてくる。手の中でそれはどんどん硬くなり、熱く滾り出す。
「んっ……あ……そんなされたら」
「誰が手を休めていいと言いました? 洗い物を続けなさい」
「んっ……」
 半べそになりながら司さんはスポンジを手にしたけれど、肘も膝も震えていて、力が入らないようだ。
「次はどうして欲しいですか? 言ってごらんなさい」
「あ……く、口で……」
「口で?」
「あなたの口で、これを……」
「これって? 曖昧な言葉で言われてもさっぱりなんですけど」
「で、ですが、恥ずかしいです」
「そうですか」
 私はそれからぱっと手を離すと、司さんの顔を覗き込んだ。
秘密計画 「言うことを聞けないのならここでやめます」
「うう……」
 目に涙を溜めて情けない顔をしている司さんの耳を、ぎゅっと引っ張る。
「言うこと、聞けないのですか?」
「う……あ、あの……その……私のおちんちんを、佳奈子様のお口で可愛がって下さい……! それから、精液を全部飲んで下さい、お願いします……!」
「……まるで、発情した猿ですね。この変態」
 私は司さんの下にしゃがみこむと、すっかり濡れた下着を下ろした。
「んっ……」
「はあっ……!」
 大きなものを口に含むと、司さんの腰がぴくりと揺れた。
 喉の奥に当たってしまうギリギリまで咥えこみ、根元を両手で持つと、口と同時に上下に動かす。
 司さんは根元をぎゅっと掴んでから、滑るように上まで動かされるのが好きなようで、これを続けているとあっという間に果ててしまう。
「んっ……ああっ佳奈子様……それ……気持ちいいです……あっ……はあ……イッしまいます……はあ……はあ……はあ……」
 柔らかい2つの膨らみまで舌で舐めて転がしながら、手は動かし続ける。表面に浮き出る血管がドクンドクンと激しく波打ち、司さんが絶頂を迎えそうになっていることを示していた。
 私は再び上から咥えこむと、歯を立てないようにしながら激しく上下に動かした。
「あ……イク……イク……あっあっあっ……あ……くっ……!」
 激しい息遣いと共に、私の口内に生温かいものが放たれる。けれど私はそれを飲み込むことはせず、立ち上がると葉山さんの鼻をつまんで口を開けさせた。
 そして白濁の液をその口へと垂らすと、顎を抑えて無理矢理飲み込ませた。
 その喉がゴクンと鳴ったのを確認すると、私は彼の頭をゆっくりと撫でた。
「……ふふ、よく出来ました」
「ありがとう……ございます」
 司さんは恍惚の表情で目を細めると、うっとりとため息を吐いた。
「次は、私のことも気持ちよくしなさい」
 私がスカートを捲り上げると、司さんは跪いて歓喜の表情でその中へと顔を埋めた。


 着替えを済ませると、私は今回の悪戯について白状した。
 そしてすり替えたプレゼントを返すと、改めてそれを受け取った。
 白い箱から出てきたのはかかとの高いシックな赤い色のパンプスで、小さなリボンをあしらったとても上品なデザインのものだった。
 履いてみるとサイズもピッタリで、かかとの高さのわりには歩きやすく、私はすぐに気に入った。
「ありがとうございます、とても素敵です」
 司さんの前でくるりと回り、履いている姿を見せる。
「……」
「……司さん?」
 難しい顔で黙り込んでいた司さんが、小さく呟いた一言を、私は聞き逃さなかった。
「……踏まれたい」
「……は?」
「あっ! い、いえ、なんでも……」
「へえ……踏まれたいんですか」
 私はニヤリと不敵に笑うと、司さんに向かい、ゆっくりと近づいていった。
 その夜は一晩中、部屋に歓喜の悲鳴が響き渡ったことは言うまでもない。